40年来の原因不明の腰痛:腹筋と肋骨に問題を発見

40年来の原因不明の腰痛:腹筋と肋骨に問題を発見

40年前から治らない腰痛に悩む方と遭遇しました。画像に映らないタイプの痛みだったらしく、過去の検査では何も問題なし。あらゆる治療法を試しても、症状に変化はなし。このような場合、どのようなメカニズムを考えたらよいでしょうか?

今回は、意外と多くの方が悩んでいる「肋骨由来の腰痛」をお伝えします。

 

長引く腰痛のメカニズムは?

一般的に腰痛は多くの人が一度は経験するもので、その原因は多岐にわたります。しかし、今回のように40年もの間、原因が解明されず、しかも一向に改善しない腰痛は、患者さんだけでなく医療専門家にとっても大きな悩みです。

画像診断で異常が見当たらない場合、その原因を特定することは困難です。多くの場合、明確な原因が見つからない腰痛は慢性腰痛として患部だけでなく、脳に作用する薬が処方されたり、認知行動療法といった症状との向き合い方を変えるような治療法が行われます。

しかし、それらの効果は限定的です。その理由は,腰痛の根本的なメカニズムを解決していないからです。それでは、どのようなメカニズムを想定すべきでしょうか?

一般的な画像に異常が認められない慢性腰痛の場合、

  • 筋筋膜性腰痛
  • 筋膜を貫く神経の痛み
  • 血管由来の痛み
  • 仙腸関節由来の痛み

などがあります。これらはいずれも画像において異常を見つけにくいのですが、局所麻酔(ブロック注射)で痛みが軽減すれば、ほとんどの場合原因が特定されます。このため、40年間も原因不明ということにはなりにくいと思われます。

  

肋骨と腹筋に起因する腰痛とは?

① 症状

私の腰痛の原因が肋骨と腹筋にある可能性が浮上してきました。腹筋の過緊張が肋骨の歪みを作り、腰部の痛みを引き起こすことがわかってきました。この場合の痛みの部位は通常の腰痛よりも少し高い位置にになります。ちょうどへその真後ろくらいの高さが痛みます。

痛みは立っているだけでも,座っているだけでも起こります。快適な姿勢を見つけにくいのが特徴です。前屈や後屈が全く出来ないくらいに痛い場合もあります。また、ぎっくり腰のように急激に痛みが強くなって、まっすぐに立つことが出来ないくらいの強い痛みが起こる場合もあります。

 

② マルアライメント症候群による分析

多くの腰痛は骨盤,肋骨、背骨などの骨格的な歪み(=マルアライメント)と関連して起こります。このような骨格の歪みとの関連性のある痛みをまとめて「マルアライメント症候群」と呼んでいます。

肋骨に由来する痛みもこのマルアライメント症候群の考え方によって説明できます。つまり骨格の歪みと,通常よりも高い位置の原因不明は密接に関連しているのです。具体的には、第11、12肋骨下制というマルアライメントが腰痛の根本的な原因かもしれません。

第11肋骨を引き下げるのは脇腹の腹筋群です。そして第12肋骨を引き下げるのは腰部の背筋群の中でも特に背骨から離れている外側にある「腸肋筋や腰方形筋」です。これらの筋肉が過度に緊張してしまうと、それぞれの肋骨が引き下げられてしまいます。

 

③ 結果因子

第11肋骨が引き下げられると,第11肋骨と背骨を繋ぐ関節(肋横突関節)に負担がかかります。第12肋骨が引き下げられると、第12肋骨と背骨を繋ぐ関節(肋横突関節)に負担がかかります。これが慢性化すると、これらの関節に炎症が起こる可能性があります。急激におこると、捻挫のように関節包に損傷が起こったり、強い炎症が起こったりします。

第12肋骨だけが引き下げられると、第11肋骨と第12肋骨の間が引き離されてしまい、肋間筋やその上にまたがる背筋群が防御的に過緊張になる可能性があります。

第11肋骨だけが引き下げられると、第11肋骨と第12肋骨の間が接近し、第10肋骨と第11肋骨の間が広げられてしまいます。その結果、これらの肋骨の間の痛み、そしてそれらをまたぐ背筋が過緊張に陥りします。

これらのメカニズムによって、これらの肋骨周辺の背筋群にはいくつもの「しこり」が出来てしまいます。そのしこりを弛めることができても、原因である肋骨の下制が直らなければ、症状は慢性化してしまうのです。

 

④ 原因因子

下腹部の過緊張が第11肋骨下制を引き起こしています。これは、大腸周囲の癒着、鼠径靱帯から下腹部の筋間の癒着によるものです。また、腰方形筋と腸肋筋の過緊張が第12肋骨を引き下げてしまいます。

実際に、腹筋群は広範囲に硬く謹聴し、筋間は癒着していました。さらに、第11肋骨を手で押し上げようとすると腹筋群が強く謹聴して、動きに抵抗してました。このことからも、腹筋群の過緊張が第11肋骨を引き下げていたことが強く疑われるのです。

 

⑤ 既往歴との関連

腹筋群の過緊張の原因としては以下のようなものが考えられます。

  • 腹筋の肉離れ
  • 鼠径ヘルニアの術後
  • 妊娠・帝王切開
  • 膀胱炎・大腸炎・虫垂炎など内臓の炎症
  • 子宮内膜症
  • 子宮筋腫・卵巣嚢腫などの疾患

これらの影響で第11肋骨の先端付近の腹筋群を謹聴させ,癒着をつくってしまうと、常に第11肋骨の先端が下方に引き下げられてしまいます。

今回遭遇した患者さんは、10歳の時に鼠径ヘルニアの補強術を経験し、中学生の時に腰痛が発生しました。その後、妊娠/帝王切開、虫垂炎(手術)、子宮筋腫・摘出術の既往歴があります。これらの手術と治療が、腹部の筋肉と組織に影響を与え、腰痛の原因となっている可能性があります。

 

⑥ メカニズムのまとめ

腹筋群の過緊張が腰痛を引き起こすメカニズムは、腹部の過緊張と癒着が、肋骨と肋横突関節に不自然なストレスをかけることに起因します。特に、第11、12肋骨下制は、腹部の筋肉の過緊張と癒着によって引き起こされます。

この過緊張と癒着は、肋間を狭小または拡大させ、腸肋筋と多裂筋にスパズムと癒着を引き起こします。これにより、腰に痛みと不快感が発生します。患者さんの既往歴、特に腹部の手術は、この症状の発展に寄与している可能性が高いです。

 

 

治療の進め方

治療は原因因子に対する治療と結果因子に対する治療を明確に分けて進めることが重要です。

 

① 原因因子に対する治療法

原因因子に対する治療としては、徹底的な筋の癒着のリリースに集約されます。多少の効果があるようなリラクセーションでは、無意味なくらいに癒着の影響は協力です。

腹筋群の癒着は強力に第11肋骨を引き下げています。腸肋筋と腰方形筋、そしてこれらの間に介在する胸腰筋膜の癒着は、強力に第12肋骨を引き下げます。このため確実に過緊張を解消させるため、組織間リリースで癒着を解消させることが望まれます。

 

② 結果因子に対する治療法

肋骨の下制によって起こった背筋群の過緊張を解消することが必要です。それには、

  • 脊柱起立筋間の癒着のリリース
  • 脊柱起立筋と肋骨/肋間筋/肋横突関節包の癒着のリリース
  • 腸肋筋/胸腰筋膜/腰方形筋の癒着のリリース
  • 肋間筋間のリリース

などを徹底的に行います。徹底的とは、肋骨の位置が正常化して,あらゆる運動で痛みが生じなくなるまで、という意味です。

上記の治療が完成すると、ほとんどの動作での痛みが消失します。そこから先は、股関節や胸郭全体の可動性を改善したり,腹筋群や背筋群を強化していきます。

 

まとめ

40年来の原因不明の腰痛が、肋骨と腹筋の問題に起因している可能性があります。早期に発見するための評価システムと治療法の進歩に期待が寄せられています。腰痛に悩む方々にとって、新たな希望の光が見えてきたかもしれません。

この記事が、長年腰痛に悩む方々の参考になれば幸いです。そして、これからの医療技術の進歩により、腰痛の根本的な解決策が見つかることを願っています。

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