50代女性の全身の不調に対する評価と考察
患者背景
50代の出産経験のない女性が、全身にわたる複数の不調を訴えてファシアケアに来られました。
主訴
以下の通りです:
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左首の痛み(張り):持続的な違和感とこわばり。
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左脇腹の痛み(硬さ):左腹部に硬結感を伴う痛み。
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骨盤の異常感覚:立つ際に骨盤が左に移動する感覚、左足の小指に体重が偏る。
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腰・背中の痛み:広範囲にわたる慢性的な痛み。
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食事後の吐き気:食後の不快感や吐き気。
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会陰部の不快感:持続的な違和感。
これらの症状により、患者はどの医療機関や治療法を選択すべきか判断できず、日常生活に大きな支障をきたしていました。
評価
詳細な問診と身体評価を行った結果、以下の所見が確認されました:
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ナットクラッカー症候群の関与:
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左腎静脈と十二指腸が圧迫されており、これが左卵巣静脈に沿った痛みを誘発。
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左腹筋群および小腸を含む広範囲な癒着が確認され、左胸郭と骨盤の運動連鎖に影響。
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第11肋骨と腸骨稜の距離が接近し、左腹部の機能的制限が顕著。
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運動学的評価:
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左側屈時の改善:左側屈を行うと、荷重時の骨盤の左へのシフトが軽減し、頸部の可動域も改善。
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仙骨の傾き:仙骨の前額面で左傾斜(尾骨右偏位)が確認され、右尾骨と坐骨間の距離が接近。
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左第11肋骨の下制:肋横突関節周囲の多裂筋・最長筋にスパズムが認められ、これが左胸郭の下制を引き起こし、骨盤および頸部の不調に寄与。
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推測される病態:
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ナットクラッカー症候群による左腎静脈と十二指腸の圧迫が、左腹部の癒着と痛みを増悪。左卵巣静脈から子宮円索静脈の拡張による会陰部の不快感も誘発。
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左第11肋骨の下制が胸郭の運動性を制限し、肋横突関節周囲の筋スパズムが左腹部の硬さと痛みを助長。
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左脇腹の癒着による過緊張が連鎖的に骨盤の左シフト、頸部の可動域制限を引き起こしたと考えられる。
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食事後の吐き気は、上腸間膜動脈による十二指腸の圧迫による消化機能の障害が関与している可能性。
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考察
本症例では、ナットクラッカー症候群を基盤とした左腹部の癒着と筋骨格系の異常が、全身性の不調を引き起こしていると推測されます。特に、左第11肋骨の下制と胸郭の運動制限が、骨盤と頸部の連鎖的な不調を誘発している点が重要です。左側屈による症状の軽減は、胸郭と骨盤の運動連鎖を改善することで、力学的負荷が軽減されたことを示唆します。
ファシアケアプラン
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ナットクラッカー症候群:
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小腸の上方への移動を促し、上腸間膜動脈の緊張緩和、癒着軽減のための組織間リリース。
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筋骨格系の介入:
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左第11肋骨周囲の多裂筋・最長筋のスパズムに対し、第11肋骨を下方に引く左脇腹のリリース
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胸郭の可動性向上を目指した呼吸エクササイズや側屈運動を指導。
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仙骨マルアライメントの改善のため、右殿部、尾骨前方の癒着のリリース。
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結論
この症例は、ナットクラッカー症候群による内臓系の圧迫と筋骨格系の異常が複雑に絡み合った稀なケースです。左第11肋骨の下制と胸郭の制限が、全身の運動連鎖に影響を与え、多様な症状を引き起こしていると考えられます。
包括的な評価に基づき、内臓系と筋骨格系の双方に対するアプローチを組み合わせた治療計画が、患者のQOL向上に寄与する可能性が高いと考えられます。