猫背・巻き肩:産後女性やアスリートにもみられる不良姿勢の原因と治療法

猫背・巻き肩:産後女性やアスリートにもみられる不良姿勢の原因と治療法

はじめに

先日、日本のトップスプリンターが姿勢改善を目的としてリアライン・ラボに来られました。彼はパフォーマンス向上と怪我予防のために、姿勢の重要性を理解しておられました。一方、産後女性たちも姿勢改善や種々の不調改善のために来られます。アスリートと産後女性は全く異なるように思われるかもしれませんが,実は共通の問題を抱えています。

産後の女性とアスリートは、ともに身体の最適な状態を獲得したいと考えています。産後の体は、妊娠と出産によって姿勢の変化や筋肉のバランスの変化に苦しんでいます。一方、アスリートは常に最高のパフォーマンスを発揮するためにコンディションを向上させることが必要です。

この両者に共通するのが、姿勢の改善です。良い姿勢は、身体のバランスを整え、痛みを軽減し、効率的な動きの基礎となります。リアライン・ラボでは、産後の女性とアスリートに共通の姿勢改善法を用いています。

 

姿勢改善の重要性

産後の女性にとって姿勢改善は非常に重要です。妊娠と出産による身体の変化は大きく、姿勢の乱れが痛みや不快感を引き起こす可能性があります。良い姿勢は身体のバランスを整え、痛みを軽減し、効率的な動きをサポートします。適切な姿勢を保つためには、専門家のアドバイスを受けながら適切なエクササイズやストレッチを行うことが重要です。

陸上選手にとって、正しい姿勢はパフォーマンス向上に欠かせません。適切な姿勢は効率的な動きを可能にし、力を最大限に引き出すことができます。さらに、正しい姿勢は怪我の予防にもつながります。陸上競技では、身体のバランスや軸の安定性が重要です。良い姿勢を保つことで、筋肉のバランスが整い、パフォーマンスの向上につながります。

産後女性とアスリートの不良姿勢にみられる共通の問題

不良姿勢の原因の多くは、産後の女性とアスリートで共通しています。重要なのは、個々の身体の状態に合わせた調整を行うことですが、以下のような共通項をしっかりと理解しておく必要があります。

以下の問題点は、両者に共通の問題です。

  • 腹部の癒着で胸郭が引き下げられ胸を張れない
  • 胸郭が一塊になって胸郭内の動きが乏しい
  • 頭が前に引かれてストレートネックになっている
  • 肩甲骨/鎖骨の下の神経や血管が癒着して肩を後ろに引けない
  • 肩甲骨の内側(背中側)の筋肉や神経の癒着で動きが乏しい

以上は、産後の女性とアスリートに共通する不良姿勢の原因です。具体的な問題点として、腹部の癒着や胸郭の問題、頸椎の位置調整、肩甲骨の動きの改善などがあります。これらを確実に治すためには、ストレッチやエクササイズだけでは不十分で、癒着のリリースが不可欠です。以下、その具体的なリリースや有効なエクササイズを解説します。

 

対策1:腹筋の癒着と内臓の癒着から肋骨の動きを改善

腹筋と内臓の癒着は、肋骨の動きを制限し、呼吸を浅くします。アスリートの場合は腹筋に力が入ると呼吸を制限し、胸郭を下げて猫背を作ってしまいます。折角腹筋を鍛えても、これでは意味がありません。

スプリンターであれば猫背から、背骨の動きを制限し、骨盤の回旋運動が制限されてしまいます。

中・長距離の選手であれば,呼吸が浅くなり、スパート時やペースアップ時の呼吸量が確保しにくくなります。

産後女性は、腹筋が横方向に伸びきった状態で癒着しています。このため、腹筋はいつまでたってもゆるゆるのままで、しかも、上下方向には緊張するので猫背を作り、呼吸を浅くします。

これを改善するためには、腹部の筋間(外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋、腹直筋の間)と、腹横筋の深層の内臓との癒着を解消する必要があります。筋肉や内臓が適切に滑ることにより、上記の問題が解決出来ます。

リリースをした上で、その効果を持続するために深層筋肉を意識したストレッチやエクササイズが必要です。深い呼吸を意識しながら行うと、より効果が高まります。もっとも確実に腹横筋の収縮を促すために、10秒間の全力風車回しが有効です。また、内臓の動きを維持するために、仰向けでの腹式呼吸が重要となります。

 

対策2:胸郭の柔軟性向上

胸郭の可動性を高めることで、背骨全体の動きが改善します。肋骨の動きを制限するものとして、肋間筋、外腹斜筋・内腹斜筋、前鋸筋、広背筋、そして外腸骨静脈や長胸神経などがあります。また肋骨の裏側にある肝臓や胃などの癒着も横隔膜や胸郭の運動を制限する場合があります。

これらを一時的にでも改善出来れば、胸郭の可動性低下がどれだけ悪影響を及ぼしているのかを瞬時に理解できるでしょう。これには、リアライン・コアが有効です。リアライン・コア胸郭ユニットを装着して深呼吸などの基本エクササイズを行うことにより、胸郭は柔軟になり、呼吸が深くなります。これが永久に続くとどれだけ生活や競技が向上するだろうと夢が広がるはずです。

そのような効果を持続させるには、上記で述べた肋間筋や肋骨周囲の血管や神経をリリースする必要があります。胸郭の可動性を制限している組織を精密触診によって見極め、その組織の癒着をリリースしていきます。

リリース後のリアライン・コア胸郭ユニットの活用は、胸郭の柔軟性をさらに改善し、それを持続させるのに役立つはずです。加えて、回旋や側屈、後屈ストレッチや胸郭回旋筋である「胸部多裂筋」のトレーニングが重要となります。さらに深い呼吸を促進します。これにより、身体全体の酸素供給が向上し、疲労回復にもつながります。

 

対策3:頭部前方位(ストレートネック)

頸椎、特に首の前側の付け根の癒着は、頭痛や肩こりの原因となります。首を後ろに引くことで、この癒着をリリースし、頸椎の正しい位置を保つことができます。簡単な首のストレッチや、姿勢を意識するだけでも大きな改善が見込めます。

ストレートネックの原因は「猫背」ですが、それが改善されにくい原因があります。それは第7頸椎が前方に引き込まれて癒着していることによります。具体的には、頸椎の前にある頚長筋や交感神経(星状神経節)などとその前にある食道とが癒着している場合があるのです。食道は肋骨の前にある胸骨に密着しているので、頸椎が前方に引き込まれてしますのです。

この問題を解決するには、星状神経節と食道の癒着を解消することが必要です。首から頭に行く総頚動脈と食道が密着していますが、その間を広げるようにして深部に指先を進めると、交感神経・頚長筋に触れることが出来ます。それをこするようにしながら、下方に向けてリリーすると徐々に食道の後面が解放されていくのです。

その後は、首の伸展、側屈、回旋などのストレッチをゆっくりと行います。特に伸展はストレートネック改善に重要となるので、四つ這いやうつ伏せで肘をついた姿勢から、胸を反らせながら上を向くようなストレッチがお奨めです。

 

対策4:肩甲骨を後ろに引けない胸の硬さと巻き肩

肩甲骨周りの筋肉は、日常生活やスポーツ活動で重要な役割を果たします。大胸筋や小胸筋といった胸の前の筋肉が硬いと、胸を張りにくくなることはよく知られています。これらの筋肉は、猫背やデスクワークの習慣で短縮し,その状態で癒着します。このため、ストレッチでは容易には回復できないがんこな柔軟性低下ができあがってしまいます。

筋肉以外にも神経の癒着が影響している場合があります。鎖骨の下にある腕神経叢は肋骨側では前鋸筋、前側では大胸筋や小胸筋と癒着して、よりがんこな猫背・巻き肩を作り上げてしまいます。ここまで来ると、本格的な治療を行っても改善が困難になってしまいます。

さらに血管が影響する場合があります。腕神経叢の下には鎖骨下静脈という太い静脈があり、ここからの枝が胸の方に下りてきます。この静脈が癒着すると鎖骨下静脈が下に引かれてしまい、静脈が遠回りするために鎖骨や肩甲骨の可動性を制限してしまいます。

産後の女性では、乳腺が発達するためにこの枝である内側胸静脈、最上胸静脈、胸肩峰静脈、外側胸静脈などが乳腺と間接的に癒着してしまい、がんこな猫背をさらに補強してしまいます。

以上のように、鎖骨から胸の筋肉や神経、血管の癒着が胸の硬さや巻き肩の原因となります。まずは、これらの緊張と癒着を精密触診によって詳しく調べ、適宜組織間リリースで改善していく必要があります。全ての癒着が解消されれば,間違いなく巻き肩は治ります。

その後、胸の前の筋肉のストレッチが必要です。頭の後ろで手を組んで、両肘を後ろに引いたり、フォームローラー(Reauty Role)の上に仰向けに寝てゴロゴロと揺らしたりするストレッチを推奨します。また肩を後ろに引く菱形筋や僧帽筋中部線維のトレーニングも重要です。

 

対策5:肩甲骨の内側への可動性向上

猫背対策で意外と知られていないのが、肩甲骨の内側への動きです。肩甲骨が内側に動かないと、肩を後ろに引くときに小胸筋などの高い柔軟性を必要とします。一方、肩甲骨を内側に移動させると、小胸筋を大きくストレッチすることなく、胸を張ることが出来るようになります。

肩甲骨の内側への可動性を高めるには、肩甲骨の上内側の筋肉や神経の癒着をリリースする必要があります。僧帽筋上部線維・副神経・内上角滑液包・肩甲挙筋・肩甲背神経(動静脈)・前鋸筋浅層(肩甲下筋との癒着)、前鋸筋深層(胸郭との癒着)などを的確にリリースすると、その可動域が確実に改善に向かいます。

もう一つ重要なのは、顴骨骨の下角付近の筋肉の癒着です。広背筋・肩甲骨(大円筋)・前鋸筋・胸郭などが重なった状態で癒着している場合があります。これによって肩甲骨の上方回旋が固定されてしまい、重度の肩こりや肩甲骨内転の制限を引き起こします。

以上のように、肩甲骨周囲の筋肉や神経、血管の癒着がその動きや位置の修正を困難にしています。これらを的確にリリースして可動性を改善することにより、理想的な肩甲骨の内方への可動性を取り戻すことができます。

その後は対策4と同様に、胸の前の筋肉のストレッチが必要です。頭の後ろで手を組んで、両肘を後ろに引いたり、フォームローラー(Reauty Role)の上に仰向けに寝てゴロゴロと揺らしたりするストレッチを推奨します。また肩を後ろに引く菱形筋や僧帽筋中部線維のトレーニングも重要です。

まとめ

姿勢を改善することは、産後の女性とアスリートにとって非常に重要です。そして、その原因はとても複雑で、容易に改善出来る物ではありません。日本のトップレベルの陸上選手ですら、その姿勢が修正できずに四苦八苦しています。しかし、高い解像度で猫背の原因を突き止めて、それぞれの原因に対してもっとも効果的な治療法を選択することで、長年のがんこな猫背を改善することが可能です。負担軽減のため、パフォーマンス向上のため、ぜひ猫背改善に取り組んでみてはどうでしょうか?

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