妊娠中に恥骨の痛みを経験することは比較的一般的ですが、その痛みを軽減または治療する方法が存在します。恥骨の痛みは、妊娠中に骨盤が変化し、それに伴って恥骨周辺の組織に負担がかかることによって引き起こされるものと考えられています。しかし、原因はそれだけではありません。
恥骨の弛みとは?
恥骨の痛みの主な症状には、以下のようなものがあります:
- 恥骨や骨盤周辺の痛み
- 歩行時や座っている時の痛み
- 腰痛や骨盤の不安定感
- 足や太ももの痛みやしびれ
妊娠後期から産後にかけてこれらの症状がある場合は、恥骨の関節の弛みが痛みの原因である可能性があります。急に症状が強くなった場合は、靱帯が引き延ばされ、炎症が起こります。
捻挫の痛みが軽減するのに3−4週間かかるのと同様に、「損傷」による痛みは数週間続きます。その間は恥骨結合への負担を軽減するために、以下の対応が一般的です。
- 安静(家事や外出を控える)
- アイシング
- 保護(ベルト着用)
これらにより患部を保護しながら、急性期の痛みが軽減するのを待ちます。前向きに歩けないため、後ろ向きに歩くという方もおられます。少しでも負担の軽い動作を探しながら、無理のない生活を送ることをお奨めします。
1ヶ月ほどたつと、損傷した靱帯はある程度治ってきます。その後は徐々に安静を解除して、できることを増やしていくことができます。骨盤ベルトを装着して恥骨結合を保護しつつ、ゆっくりとした動作での生活を心がけてください。
3ヶ月たっても痛みが続く場合、癒着による痛みの慢性化を想定する必要があります。癒着については,以下に詳しく説明します。
癒着による慢性的な痛み
恥骨結合の弛み以外の痛み、もしくは産後3ヶ月以降の痛みに関しては、以下のような原因が考えられます。
恥骨上の神経の痛み
恥骨上の神経の痛みは、妊娠中に恥骨上にある神経が癒着しているために引き起こされることがあります。この神経は妊娠中に子宮の奥を通ってくるため、子宮によって押され、強く緊張します。その結果、恥骨上で痛みを引き起こすのです。
この痛みはしばしば鋭い刺すような痛みとして感じられ、歩行や座位の変化などによって悪化することがあります。出産によって解消される場合もありますが、癒着が残っているため長期化する場合もあります。
皮下組織や筋肉間の癒着の痛み
恥骨の痛みの一因として、皮下組織や長内転筋と恥骨のスキマなどの癒着が考えられます。過去に出産経験がある場合、そのときに恥骨の関節を痛めてしまうと炎症が起こり、その周囲に癒着を引き起こすことがあります。
これは恥骨を繋いでいる前恥骨靱帯などの周囲に起こり、皮膚と癒着を引き起こします。その結果、寝返りや脚を引き上げる動作、靴下をはくときの片脚立ちなど、恥骨付近の筋肉が緊張するだけで痛みを引き起こすのです。
この痛みは癒着によって起こっており、損傷が拡大して悪化する心配はありません。しかし、癒着が剥がれない限りは痛みが続くので、とてもしつこく,長期化しやすいのが特徴です。
関節包と関節円板の癒着の痛み
恥骨の痛みの別の原因として、関節包と関節円板の癒着が考えられます。過去の妊娠・出産で恥骨の関節を繋ぐ前恥骨靱帯などに損傷が起こると、そのときの炎症の影響で靱帯と関節の間にある関節円板とが癒着を起こすことがあるのです。
この痛みは特に歩行や立位時、特に片脚立ちで起こりやすいのが特徴です。この痛みを解消するには、靱帯の裏側の癒着のリリースが必要です。
症状を軽減する方法
恥骨の痛みを軽減するためには、以下のような方法を試してみることがおすすめです。
癒着のリリース
癒着で起こった痛みは、癒着が解消されない限り続きます。つまり、長期化しやすいのが特徴です。時には出産から5年たっても痛みが残っているような方もおられます。
神経をリリースする場合は、痛みのある部分だけでなく、神経の緊張を引き起こしている原因を解消することが必要です。妊娠中は子宮の後ろ側の治療は出来ませんが、出産後1ヶ月以上けいかすれば恥骨に下りてくる陰部大腿神経陰部枝をたどって癒着を1つずつ解消していくことが可能となります。
癒着を的確にリリースするには、神経を一本一本見極めて、ターゲットを明確にした上で行う必要があります。超音波を用いたハイドロリリース、精密触診を用いた組織間リリースなどが該当します。
■ハイドロリリース
ハイドロリリースは整形外科や麻酔科(ペインクリニック)の医師が行う治療法ですので、この治療法を採用しているクリニックを受診して、医師と相談してください。
■組織間リリース
組織間リリースは、蒲田が考案した徒手療法です。認定制度を設けており、理学療法士や柔道整復師、鍼灸師などの医療資格者のうち、組織間リリースを習得したウィメンズヘルススペシャリストにご相談ください。
まとめ
妊娠/出産を経験すると、恥骨の痛みは仕方が無いものという情報がすり込まれている場合があります。とりあえずベルトで締めておけば大丈夫、と言われることもあります。しかし、原因がいくつかある中で、ベルトが有効なのは弛みによる痛みのみです。一方、癒着による痛みはベルトでは解消されません。
数ヶ月、数年たっても痛みが続く場合もありますが、組織間リリースを用いた治療は妊娠中でも産後直後でも安全に行えます。生活に支障が生じる場合も多い症状ですので、ぜひ一度リアライン・スペシャリスト事務局にご相談ください。