「むくみ拘縮」知ってますか?捻挫後のあの処置が作る拘縮を知らないと復帰できなくなってしまいます!

「むくみ拘縮」知ってますか?捻挫後のあの処置が作る拘縮を知らないと復帰できなくなってしまいます!

 

足首を捻挫した後、皆さんはどのような処置をしますか?

救急処置として、テーピングや弾性包帯での圧迫が一般的ですが、これが逆に問題を引き起こすことがあります。その名も「むくみ拘縮」です。この記事では、むくみ拘縮とは何か、その原因と対策について詳しく解説します。

 

むくみ拘縮とは

むくみ拘縮とは、足首の捻挫で強く腫れたときなどに起こるむくみによって引き起こされる足関節の拘縮のことです。この状態では、腫れがなかなか引かず、皮膚に触れても激痛が生じるため、動かせなくなります。

足首を捻挫するとくるぶしの周辺が腫れてきます。この腫れは、靱帯が損傷して出血して出来るもので、重症度(損傷レベル)が高いほど大きくなります。

3度損傷(靱帯断裂)をともなうような重症の捻挫の場合は、腫れがくるぶしが隠れるほど大きくなります。これによって足首の前を通る静脈が圧迫されると、つま先まで広がるむくみ(浮腫)が生じます。そしてこの浮腫は腫れが引くまで続いてしまいます。

 

圧迫処置の落とし穴

弾性包帯やテーピングでの圧迫は、一見効果的に見えますが、実はむくみをさらに悪化させ、痛みと拘縮を頑固な状態にする可能性があります。これには2つの側面があります。

 

①捻挫以前からあった皮膚の癒着

一つ目は、足首の上のあたりの皮膚は怪我の前からすでに癒着している可能性があります。日常的な圧迫や軽いむくみが足首から心臓に戻るはずの血液やリンパ液の流れを遮断してしまうことが挙げられます。

足首の少し上の部分(すねの下の方)の皮膚は慢性的なむくみ、靴下やテーピングの圧迫などで硬くなりやすく、つまみにくい状態になっています。過去の捻挫後にギプス固定や長期間のテーピングを行った場合も、むくみ拘縮を引き起こすリスクがあります。

つまり、足首の少し上のあたりは、もともとリンパの流れが悪い場合が多いのです。

 

②圧迫による腫れ(血腫)の移動

二つ目の問題は,圧迫によって血腫が押されて、くるぶし付近から血管の通る足首の正面やくるぶしの後ろに 移動しようとすることが挙げられます。

血腫の移動はときに重要な静脈を圧迫します。弾性包帯やテーピングで、この血腫が腱や伸筋支帯、屈筋支帯といった膜状の組織のスキマに入り込み、腱が滑りにくい状態を作り出します。

血管が圧迫され,腱が滑らない状態が起こると、つま先まで風船を膨らませたようなむくみを作りだします。そして、足の指や足首がピクリとも動かないような「機能低下」を引き起こします。

 

 

原因は皮下組織の癒着

上記の2番目の原因だけを考えると、圧迫を取り除けばむくみは解消されそうですが、そうはいきません。ここにも2つの原因があって、むくみが固定化されるのです。

 

①二次的な皮下組織の癒着

圧迫を解除しても解消されないような頑固なむくみの原因として、広範囲の皮下組織の癒着が挙げられます。むくみによって水分の動きがなくなり、徐々にむくみ自体が硬くなっていき、皮膚がつまめない状態になります。

手の甲の皮膚をつまんでみると、通常は簡単に皮膚をつまむことができます。しかしむくんだ足首の皮膚をつまむことすら出来ないくらい、硬くなっています。つまり、硬くなったむくみによって皮下組織が癒着して、リンパ管を圧迫してしまうのです。

 

②慢性コンパートメント症候群

慢性コンパートメント症候群とは、筋肉血液は入ってくるが、その血液流入がつくりだす筋内圧の上昇によって静脈が潰されてしまう状態をいいます。つまり、筋肉に血液は入ってくるが出ていかなくなるので、筋内圧が上昇します。軽症の場合は、ちょっと休憩するだけで、この状態は解消されます。

重症の捻挫で足首が強く腫れた場合に、足首からつま先にかけてが一種のコンパートメント症候群に陥る場合があります。足首の前や内くるぶしの後ろを通る動脈はつぶれず、静脈だけが潰れてしまうのです。その結果、足首からつま先までが1つのコンパートメント(区画)として腫れ上がり、静脈が潰れいるために水分が心臓に戻っていかなくなるのです。

 

このようなむくみの固定化が起こると、数週間たっても腫れが引かず、ちょっと動かしても激痛というような状態が続きます。酷い場合は、眠ることが出来ないくらいの安静時痛に苦しめられ、悪化の一途をたどります。最悪の場合、慢性疼痛症候群(CRPS)に至り、痛みをより複雑化・深刻化する場合があります。

 

対策は癒着のリリース

対策としては、損傷の拡大、腫れの悪化を防ぎつつ、血流とリンパの流れを改善することにつきます。

 

①圧迫解除、安静と固定

上に説明したとおり,圧迫は静脈とリンパ管を圧迫してむくみを固定化します。このため、テーピングや包帯を取り除き、あらゆる圧迫を解除します。しかし、それでは足首がちょっと揺れるだけで激痛が生じることになるので、ある程度の固定が必要です。

最も適した固定器具は、足首のナイトスプリント(「リアライン・スプリント」など)と呼ばれるものです。これは、足首の底屈のみを制限することができる器具で、マジックベルトによる軽い固定以外の締め付けが生じません。必要に応じて背屈方向に動かすことが可能となります。また、肌が露出しているので,効果的にアイシングを施すこともできます。

 

②皮下組織の癒着をリリース

圧迫解除と安静を確保した上で、皮下組織の滑走性を改善するための皮下組織のリリースを行います。つまむだけでも激痛なので、すねの中央付近で、すねの内側の骨に触れる場所から皮膚をつまみやすい状態になるまで軽くつまみながら動かします。

動かしても痛くなくなったら、1cm程度足首に近づいてその部位の皮膚をつまみながら動かします。足首付近まで到達したら、一列のリンパが流れやすい帯状の領域ができあがります。つまり、リンパ液の通り道が出来るのです。

また、足首からすねを締め付けていた皮膚に弛みが生じるので、ふくらはぎの筋肉が多少動くようになり、また静脈の圧迫も軽減されます。これにより、足首に閉じ込められた水分の「出口」ができます。

その後、リリースの範囲を水平方向(すねを一周するように)広げていき、最終的にはすねのどの領域も容易につまめるような状態にしていきます。面積が広いので手間がかかりますが、これが最も重要な悪循環の出口となります。

 

③足首周囲の皮下組織のリリース

少しでも水の流れが出来たら、つま先付近の浮腫が柔らかくなります。しかし、動かすと激痛という状態は続いています。この状態から行うべきことは、くるぶし周辺の腫れの部分を押したり潰したりせずに、皮膚のみをつまんで同様に皮下組織の動きを作っていきます。

痛みが強いので、すねの方から少しずつくるぶしに近づいていきます。損傷した靱帯を痛めることのないように、絶対に押したり,潰したりしないでください。皮膚だけをつまみます。

 

③腱の滑りを改善

むくみが慢性化、固定化すると、足首付近を通る腱が動かなくなります。腱の滑走性が失われるので、自力では動かせないくらいに筋肉の働きが制限されてしまいます。

痛みが軽ければ、他動的に足の指を動かします。足首を動かすとおそらく激痛なので、最小限の動きで十分です。本人が我慢できる範囲での動きを繰り返すことが重要で、タオルをつま先にかけて、自力で繰り返し引っ張ることをお奨めします。

組織間リリースを習得したセラピストであれば、腱を覆っている伸筋支帯や屈筋支帯の深層の滑走性を改善するように、腱をたどりながら支帯をリリースしていきます。腱が動くようになると、痛みが劇的に軽減されていきます。

足首周辺の支帯のリリースが終わったら、徐々にその範囲をつま先に向けて拡大していきます。最終的には指を自由に動かし、足首をある程度の範囲で痛み無く「自由自在に」動かせるようになることを目指します。

 

③荷重の練習

 足首が90度(中間位)の状態にまで動かせるようになったら,徐々に踵に体重を乗せる練習を開始します。

まず、イスに座って膝を90度に曲げ、座ったまま踵を床につけるようにします。最初は痛みで踵が床につかないかもしれませんが、ゆっくりと時間をかけて繰り返します。カーフレイズのように踵を上げたり下げたりすると、皮膚や腱の動きにも好影響が生じます。

イスで足の裏全体がつけられるようになったら、膝の上に上半身の重みをかけて、足の裏への荷重を強めていきます。これにより、足底に溜まっていた水分を押し出すことが出来ます。

それが出来たら,徐々に座っている座面を高くしていきます。丈夫な机などに浅く腰掛けて足の裏をつけていきます。できれば、真横から見てすねが前に傾いた状態になるのが理想的です。そして、上半身を左右に揺らすようにして、左右の足に交互に体重をかける練習をしましょう。

体重が乗る感覚がつかめてくると、立てそうかなと思えるようになってきます。しかし、まだこの段階では立てません。膝の裏の神経や血管がヒラメ筋と癒着しているので、膝を伸ばすとヒラメ筋が緊張して足首が伸びてしまうのです。つまり膝が曲がっていれば踵がつくが、膝が伸びると踵がつかないという状態になります。この場合も、ヒラメ筋上縁の神経や血管との滑走性を回復させるようにリリースします。

 

④立てるようになったら

 立てるようになったら、壁に手をついて足踏みを繰り返します。踵に体重を乗せて足踏みが出来るようになったら、むくみ拘縮の出口に到達したと判断でき、通常の足関節捻挫のリハビリを開始できます。

足踏みと指や足首の自動運動がある程度思い通りにできるようになったら、通常の足関節捻挫後のリハプログラムに戻していくことが可能となります。

ここから、本格的な可動域治療や筋力強化が始まります。長いトンネルを抜けて、回復を実感できるのはこのころからです。

 

まとめ

むくみ拘縮は、捻挫後の安易な圧迫によって引き起こされることが多いです。そのため、正確な知識と対策が必要です。皮下組織の癒着を解消し、適切なリハビリを行うことで、むくみ拘縮からの復帰が可能です。 

ブログに戻る