アスリートから高齢者まで、膝と股関節の動きをかき乱す腸脛靱帯の過緊張を克服する!

アスリートから高齢者まで、膝と股関節の動きをかき乱す腸脛靱帯の過緊張を克服する!

腸脛靱帯の過緊張は高齢者にもアスリートにも、そしてそれ以外の方にも多大な影響を及ぼします。この記事では見逃されがちな腸脛靱帯の過緊張がもたらす症状や機能障害、そしてその正しい対処法を解説します。

 

1. 腸脛靱帯の過緊張の原因

腸脛靱帯は、一般的に帯状と思われがちですが、実は大腿四頭筋を包む膜状の組織(ファシア)です。この特性を理解することは、その過緊張とその管理において非常に重要です。

膜状であるからこそ、その膜が触れる全ての構造物との癒着が起こりえます。そしてその癒着は大腿部全体に影響を及ぼします。腸脛靱帯の過緊張は、以下の癒着の結果として生じます。

  • 大腿四頭筋との癒着
  • 外側広筋・大腿二頭筋の癒着
  • 大殿筋・外側広筋の癒着
  • 大腿筋膜張筋・外側広筋の癒着
  • 外顆上で膝神経との癒着
  • 大腿筋膜と中殿筋の癒着

どこに癒着があるのかを調べることは容易ではありません。癒着をリリースする「組織間リリース」の技術があれば、癒着の有無を正確に判定できます。しかしその技術が無い場合には、癒着の有無を判定することは不可能なのです。
 

2. 腸脛靱帯の過緊張がもたらす問題

腸脛靱帯の過緊張は、股関節と膝関節の両関節の動きと安定性に重大な影響を与えます。

  • 膝屈曲時に膝蓋骨を外側に引く
  • 完全伸展を妨げ、内側広筋の収縮を阻害する
  • 酷い場合は伸展制限、屈曲制限の原因になる
  • 荷重時に意図した膝の屈曲角度で安定しない(グラグラする)

 

繰り返しますが、腸脛靱帯は帯状では無く膜状です。しかし、幅2−3cmの帯状に感じられるのは、膜状の組織の一部分が癒着もしくは付着しているために起こります。例えば大転子と外側上顆に癒着があると、両者の間が緊張します。これに、他の部位との癒着が加わることで、過緊張の状態が微妙に変化します。

 

4. 間違った解決策

腸脛靱帯の過緊張に対して、押してほぐす、という考え方には問題があります。強いマッサージやローラーの上に乗ってゴロゴロするなどセルフケアは、慢性的な挫滅を引き起こし、炎症が線維化を引き起こします。このような挫滅を伴う方法は必ず癒着を悪化させ、過緊張をさらに悪化させてしまいます。

ストレッチは副作用が起こりにくいため、安心で、安全におこなる方法です。しかし、難点としては効果が実感しにくいと点が挙げられます。ストレッチに期待すべき効果としては、

  1. 柔軟性・滑走性の改善
  2. 柔軟性 ・滑走性の維持

の2つがあります。この中で「改善」は癒着していない筋において効果が得られやすいものです。具体的には、子どものように癒着が起こっていない柔軟性低下に対しては、十分な効果が期待できます。しかし、大人で癒着が起こってしまった場合は、滑走性を改善する効果はほとんど期待できません。このため、ストレッチは効果がないという結論になってしまうのです。

一方、「維持」というのはそれほど魅力的には聞こえないかもしれません。しかし、昨日と同じ柔軟性/滑走性を取り戻すと考えると、長期的に見てこの上ない重要な効果が得られるのです。これを20年間続ければ,20年前と同じ柔軟性を維持することになるからです。

 

それでは、腸脛靱帯・大腿筋膜が癒着している場合はどうでしょうか? 結論として、ストレッチでは効果が感じられないかもしれません。しかし後に述べるリリースの効果を維持するという点で、この上ない重要な役割を果たします。ストレッチの目的は柔軟性/滑走性の維持であり、治療効果を失わないことに集中すべきなのです。

 

5. 正しい対策

正確な対策は、正確な癒着の評価と、精密な癒着のリリース、そして治療効果をいい辞するためのストレッチということになります。

①まず癒着の状態を精密触診で正確に把握することです。どの組織間に癒着があるのかを把握できなければ、治療のターゲットを決めることはできません。ターゲットが定まらないまま治療を行うと、何となく全体的に押したらほぐれるだろう、という曖昧な治療方針になってしまうのです。

②癒着に対してピンポイントで組織間リリースを行う必要があります。これにより、不要な炎症を引き起こすことなく、癒着が解消され、腸脛靱帯は弛むべくして弛みます。以下のようなレイヤーごとの癒着、そして隣接する筋との癒着を正確に把握した上で、その接触部分を狙った精密な組織間リリースが必要です。

  • 大腿四頭筋との癒着
  • 外側広筋・大腿二頭筋の癒着
  • 大殿筋・外側広筋の癒着
  • 大腿筋膜張筋・外側広筋の癒着
  • 外顆上で膝神経との癒着
  • 大腿筋膜と中殿筋の癒着

③ ストレッチを行い、再癒着が起こる隙を作らないことが重要です。高頻度におこなうこと、様々な方向に繰り返しストレッチを行うことが重要です。目的は滑走性の改善ではなく維持ですから、リリース直後の状態を超えて可動域を広げようとする必要はありません。

 

6. まとめ

腸脛靱帯の過緊張は、正しく理解と適切なケアがなされると克服することができます。間違った対処法は避け、癒着の正確な把握とピンポイントの組織間リリースを行うことで、健康で柔軟な腸脛靱帯と膝関節の動きを取り戻すことができます。健康な腿と膝を保ち、日常生活やスポーツをより楽しく、より安全にエンジョイしましょう。

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